【倒 産 の 定 義】
会社が倒産するというのは、一体どういう事を意味しているのか。元来、「倒産」という言葉は、厳密に概念規定された法律的用語ではない。往々にして「破産」という言葉と同一義にみられがちである。「破産」は昭和22年と27年に大きな改正があってから変わったものの、戦前に破産者が選挙権や公私の栄誉権は奪われた歴史もあってか、依然として同様な意味にとられる傾向がある。
「倒産」という言葉は通俗的用語としての色彩が強いが、常識的には債務者の決定的な経済的破綻を倒産という。すなわち、弁済期にある債務を一般的に(特定の債務ではなく、どれもこれも)弁済することができなくなり、ひいて経済活動をそのまま続行することが不可能となった事態である。債務者の振り出した約束手形(小切手)が不渡りになり銀行取引停止処分になるというのがその典型であるが、それ以外でも自ら裁判所に対して破産手続きや会社更生手続などの申し立てをしたり、債権者に財産状態の悪化を告げて全面的にその処置を委ねるのも、倒産といってよい。
倒産を独自な立場から調べている当社では、それを統計的に処理するため、次の事象に該当した場合をもって「企業倒産」と定義している。
■銀行取引停止処分
手形交換所は、手形・小切手などの交換決済に関連して、すべての交換手形が不渡りとなることなく円滑に決済されるよう、言い換えれば、手形・小切手の信用を維持向上させるため、不渡りにした者に対する一種の制裁として不渡り処分制度を実施している。 債務者が振り出した手形が、期日が来ても決済できず、不渡り(0号不渡り除く)になった場合、6カ月以内に2回目の不渡りを出すと、「銀行取引停止処分」として取引停止報告に掲載される。その後、処分日から起算して2年間に亘って同一手形交換所に加盟しているすべての金融機関から、当座取引を開設して手形・小切手を振り出すことも、貸付による借入金もできない。この倒産を任意整理または私的整理という。
■会社更生法
窮地にある会社が再建の見込みのある株式会社(限定)について破産を避け、再建を目指す整理方法である。 和議法や商法による会社整理の欠陥を補い、株式会社の事業の維持更生を目的とする手続きで、(1)事業の継続に著しい支障をきたすことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき、(2)会社に破産の原因とする事実がある場合は、資本の10分の1以上に当たる債権を有する債権者または発行済み株式の10分の1以上の株式を有する株主も申し立てができる。
更生手続き開始と同時に会社は財産の管理処分の権限を失い、管財人がこれを専有する。管財人は更生計画案を作成、裁判所に提出し、関係人集会の賛成と裁判所の認可により成立する。
なお、手続きに時間がかかり過ぎる面を改善した改正更生法が2003年4月より施行され、(1)更生事件の土地管轄規定の緩和、(2)更生手続開始前における更生会社の財産保全の措置の充実、(3)更生手続開始原因の緩和、(4)更生手続開始後の手続の簡素化・合理化、(5)更生計画案の早期提出の義務付け、(6)更生計画案の可決要件の緩和、(7)再建のための手法の整備、などの措置を講じている。
■商法による会社整理
和議手続きの直接目的が破産防止にあることから、その消極性を補い、株式会社が支払い不能、債務超過に陥るおそれがあり、または陥ったとき、再建を目的に裁判所の監督下で行われる手続き。
申し立ては取締役、監査役、6カ月前から引き続き発行株式総額の100分の3以上の株式を有する株主、資本金の10分の1以上に当たる債権を有する債権者。整理開始によって、破産、和議、強制執行、保全処分などの手続きは中止される。
会社更生法のように管財人は立てず、経営者が再建に当たる(但し整理委員の協力を受けたり、管理人に管理権が移ることもある)という特徴をもっている。なお、債権者100%の同意が必要である。
※ 平成12年4月より施行の民事再生法によって、この商法整理も事実上「空文化」となった。
■民事再生法
和議法が、戦前の制定時の骨格を残し、実効性が低い等の要因から、見直しを求めて平成12年4月より施行されたものである。
(1)賃金債権の優先度確保のための一定の手続規定、(2)再建計画案の作成、認可、営業譲渡などにおける労働組合関与の規定、(3)労働協約と労働契約の継続、(4)担保権消滅の制度化、(5)監督委員の配置による実効性の確保、などに主眼が置かれている。
これにより、和議法等で救済し得なかった中小企業等の再建と、労働債権の確保が大きく前進することと期待されている。
■破産
破産法第132条に基づいて債務者は自ら支払い不能や債務超過を理由に破産の申し立てを裁判所に行うことができる。裁判所は破産原因があると認めると「破産宣告」を行い、破産開始決定を出す。破産では裁判所が任命する破産管財人のもとで資産の整理、債権者への分配が行われ、債権者は原則として個別の権利の行使が禁止される。法的拘束力のきわめて強い手段である。
なお破産法とは債務者が支払い不能になったとき、破産管財人によって財産を公平に分配する手続き。申し立ては原則として債権者だが、前述の事後的な整理手続き処理にすぎないので、倒産としては重複するので統計には再度計上しない。
■特別清算
特別清算は、解散後の株式会社につき、清算の遂行の支障または債務超過の疑がある場合に開始される裁判上の特別の清算手続である。申し立ては債権者、清算人または株主で、監査役は認められていない。
■その他
企業が支払不能または債務超過に陥った場合、法的手続きをとらずに一部大口債権者と話し合い、債務の棚上げなどにより、内々に整理を行うのを「内整理」という。即ち、法的整理によらない私的整理である。その実態把握は不確実性が強く、統計上の件数は少ない。内整理の場合、裁判所を通さず、債務者または債権者から他の債権者を招集し、整理の中心となる債権者委員を決め、委員会の承認を基に清算か再建かを決定する。
休業、廃業、解散、人員整理、手形ジャンプなどのケースは、企業倒産関連現象としては取り扱っているが、とくに倒産とはいわず、したがって倒産統計件数からは除外している。
◆追記:会社更生法と民事再生法との違いについて・・・。
会社更生法は再建見込みの有る「株式会社」だけに適用され、今までの役員は退陣、企業と裁判所の間で「事前相談」と呼 ばれる煩雑な手続き必要となる。
それに対し、民事再生法は企業の倒産手続きを迅速にすることを主眼とする「再建スピードの重視」にある。適用はすべての 法人、及び個人が可能。煩わしい「事前相談」は不要で、破産状態に至る前でも申し立て可能。申請後も「経営者が残留が 出来る」こと、経営を悪化させた経営者が再建者として最適であると言う判断。
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